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村上龍の空港にて を読んで

わたしたちは、立ちまち引き込まれてしまう。昼間のコンビニに、なんでもない居酒屋に、クリスマスの新宿の雑踏に、主婦が集る公園に。

8編のショートストーリーに、それぞれの暮らしがあって、そこに個人的な希望がきらりと光って、作者はそんな希望をまるでスポイトでしゅうっと吸うように、ピンポイントに見せてくれる。わたしはその個人的な生活や細かすぎる目の前の描写に、なぜか親密な気持ちを抱いてしまう。

この短編は、それぞれの今を生きる人に寄り添う気がする。

あとがきにかいてあるように、ここにある物語は留学情報誌のために書かれたもので、

”海外に留学することが唯一の希望であるような人間を書こうと思った。考えてみれば閉塞感の強まる日本の社会において、海外に出るというのは残された数少ないきぼうであるのかも知れない。”

と、あるように、2000年の初め、まだあまり海外に出ることが一般でない時代に、その「未知」に希望と淡い期待を抱く人々を書いているんですが、

今となっては海外旅行や、留学もすごく身近になり、そこに、ロマンや一世一代の大チャンスという雰囲気はほとんどないけれど、

だからこそ、ここにいる人たちがとても身近にリアルに感じるのかもしれない。

例えば、顔見知りのママ友が出会い系サイトをしているという噂を聞いて興味本位でそのサイトを見てみるわたし。そこに羅列されるこの国のどこかの女の人の情報。十九歳、学生、読書とソフトSM。二十八歳、主婦、お菓子作り。二十四歳、パーティコンパニオン、和装。二十五歳、家事手伝い、ボンテージ。・・・というふうに。

単純にこれを考えるのはすごく楽しいだろうなあと思った。

そして、ここにある物語を、わたしはたまに読んでまた安心するんだろうと思う。